自由なラインで心を映す。モダンカリグラフィーの世界
スマートフォンやパソコンでのやり取りが当たり前になった今だからこそ、手書きの文字が持つ温もりに、ふと心を惹かれる瞬間があります。丁寧に綴られた文字には、書き手の息遣いや相手を想う時間が込められているもの。そんな手書きの魅力を、アートのように楽しむことができるのが「モダンカリグラフィー」です。
カリグラフィーと聞くと、専用の金属ペンとインク壺を使い、厳格なルールに従って美しいアルファベットを書く「西洋の書道」をイメージされるかもしれません。しかし、ここ数年で大人女子の間で人気を集めているモダンカリグラフィーは、その名の通り、現代風にアレンジされた自由なスタイルが特徴です。
伝統的な書体のような堅苦しい決まりごとは少なく、文字の形や傾き、余白の取り方などを自分の感性で自由にアレンジできるのが最大の魅力。文字の一つひとつに強弱をつけたり、リズミカルに直線を崩してみたりと、まるで絵を描くように文字をデザインしていきます。
バースデーカードやサンキュータグにさらりと一言添えるだけでも、印刷された文字にはない洗練された雰囲気が漂いますし、手帳の片隅にその日の気分を表す言葉を書き留めるだけでも、立派な作品になります。白い紙に向かい、ペン先から流れるインクの軌跡を目で追う時間は、忙しない日常から離れて心を整える、マインドフルネスのような癒やしをもたらしてくれるでしょう。
インク壺は不要。筆ペン1本で始める手軽な道具選び
「始めてみたいけれど、道具を揃えるのが大変そう」と躊躇してしまう方もいるかもしれませんが、モダンカリグラフィーの入り口は驚くほど手軽です。伝統的なスタイルのように高価な万年筆やインク壺を用意する必要はありません。初心者の方にまずおすすめしたいのが、文房具店で数百円で手に入る「筆ペン(ブラシペン)」です。
中でも、多くのカリグラファーが愛用し、入門用として名高いのがトンボ鉛筆の「筆之助(ふでのすけ)」シリーズ。特に「しっかり仕立て」というタイプは、ペン先が適度に硬くコシがあるため、筆圧のコントロールがしやすく、初心者でも安定した線を引くことができます。
ペン選びのポイントは、ペン先の弾力と太さです。モダンカリグラフィー特有の「線の強弱」を表現するには、筆圧をかけたときにペン先がしなり、力を抜いたときにスッと戻る弾力が必要になります。柔らかすぎる筆ペンはコントロールが難しく、線が震えてしまいがちですが、筆之助のようなサインペン感覚で使える硬筆タイプなら、普段の文字を書く延長線上でスムーズに馴染むことができるでしょう。
色は黒一色から始めてみるのが基本ですが、慣れてきたらグレーやセピア、くすみカラーのペンを揃えてみるのも楽しみの一つ。インクの色が変わるだけで、書かれる言葉の表情もガラリと変わり、表現の幅が一気に広がります。お気に入りのカフェでコーヒーを片手に、ペンとノートだけを広げて没頭する。そんな身軽さも、この趣味が長く愛される理由なのです。
基本のストローク練習と美しく見せるコツ
いざペンを手にしたら、すぐにアルファベットを書きたくなる気持ちを少し抑えて、まずは「線の練習(ストローク)」から始めてみましょう。モダンカリグラフィーの美しさは、極細の繊細なラインと、インクが溜まるほど太いラインのコントラストにあります。このメリハリを生み出すための基本原則はとてもシンプル。「上に向かう線(アップストローク)は力を抜いて細く」、「下に向かう線(ダウンストローク)は筆圧をかけて太く」書くこと。この2つの動きを指先に覚え込ませることが、上達への一番の近道です。
最初は、波線やジグザグ線を描きながら、筆圧のオンとオフを切り替える感覚を掴んでいきます。ペン先が紙を捉える「サッ、サッ」という摩擦音に耳を傾けながら、呼吸に合わせてペンを動かしてみましょう。インターネット上には、プロのカリグラファーが作成した無料のガイドシート(練習用の方眼紙など)がたくさん公開されていますので、それらをダウンロードしてなぞり書きをするのも効果的です。ガイドラインに沿って練習することで、文字の傾斜角度や大きさのバランス感覚が自然と養われていきます。
美しく書くためのもう一つの秘訣は、完璧を目指さないことです。少しくらい線が歪んだり、インクが滲んだりしても、それが手書きならではの「味」になります。お手本通りに書くことよりも、自分らしい線の揺らぎを楽しむこと。メッセージカードに一言添えるときも、上手に見せようと力むのではなく、相手への想いをペン先に乗せるような気持ちで書いてみてください。
文字という記号が、あなたのアートになる。そんな新しい表現を手に入れたとき、日常の景色は少しだけアーティスティックに色づき始めるはずです。
